2014年にデロイトトーマツで執務を開始してから、アジアのヘルスケアの実情を知るために、台湾、中国、ベトナム、タイの各国を訪問し、日本の医療を海外から客観的に見てまいりました。海外では、医療保険制度が充実していない分、国民の自己責任で病気にならないようにする予防医学が進んでおり、死亡原因に占めるがん疾患も減少傾向にありますが、日本は世界の先進国では唯一、がん疾患での死亡が増加し、死亡原因の28%まで達して更に上昇傾向にあります。
日本の皆保険制度は素晴らしい制度ですが、保険医療の領域は、「国民が病気になってから」始まりますので、それまでの患者様の生活習慣等の潜在的な原因要素があまり重視されていないと思います。
日本の財源を考えたときに持続可能な医療保険制度にしていくためには、「予防医学」について、医療関係者が真剣に取り組むべきだと思っております。
予防医学の入口として、日本未病学会を創立された福生先生と7年ほど前にご縁があり、「一般社団法人 未病総合研究所」のシニアアドバイザーとして、所属しております。https://www.mibyou-united.org/service/
2019年には台湾の国立台湾大学で「日台未病交流フォーラム」を開催し、「未病の日」記念 未病 Lab ミーティング を行った。
https://www.j-mibyou.or.jp/pdf/42th-mibyou-lab-meeting.pdf
未病領域につながる重要な生活習慣となる高齢者の食事については、中国の病院や介護施設を訪問し、施設の食事を試食させていただき、気づいたことがありました。高齢者施設の食事なのに、毎食、肉料理がでてきて、タンパク質いっぱいの高カロリーのおかずがたくさん並んでいて、ご飯やおかずが自由にお代わり出来ました。そして施設の高齢者をみるとみんな健康そうに少しだけ太って、笑顔いっぱいに食事していました。
日本の施設では、管理栄養士が完璧にカロリー計算をした食事を介護スタッフが食事介助しながら、やせ細った高齢者がうつむきながら食事している光景とは、まったく違いました。
アジアでは日本の医療・介護が進んでいると認識されてますが、日本が進んでいる部分もありますが、世界標準からみて進歩していない部分もあることがアジア各国の医療・介護現場をみてよくわかりました。
ブログ「私の視点」
病院連携型ホスピス住宅
ホスピス住宅は、がん末期患者に対して高度な看護技術が必要な緩和ケアを、看護師が中心になってオペレーションを行うので、介護の領域ではなく医療の領域になる。これは、がん末期患者を受け入れて、病院と同じレベルの緩和ケアサービスを実際にやってみると実感する。スキルの高い看護師を採用する事ができるかどうかがホスピス住宅の成功を決める。
スキルの高い優秀な看護師に「必要のない訪問看護」の指示を出しても離職に繋がるだけで、不正請求に繋がるような業務指示は看護師から拒否されるはずだ。不正請求に繋がる運営を行なっているホスピス住宅は、その事実だけでも看護オペレーションの質が保たれていない事が分かる。
介護事業者が、今までの介護サービスの延長線上で新たにホスピス住宅の運営に参入しても、医療領域である「がん末期患者への高度な緩和ケアオペレーション」を構築するのは、非常にハードルが高い。
看護師と介護スタッフとのチームアップにも慣れていないので、最も重要な医療・介護のオペレーション連携がうまくいかないケースが多く、介護事業者がホスピス事業にチャレンジしても元々の医療リソースがないので成功するのは難しい。
前職では、アライアンス先の医療機関と連携して、「病院連携型ホスピス住宅」のモデルを採用して、病院と連携しながら看護師の採用を進めた。それでもスキルの高い看護師を短期間で採用するのは大変だった。
しかし、「医療法人でしか出来ない事」と「民間企業でしか出来ない事」の役割分担をして、民間企業としては、在宅医療と緩和ケアをテーマにした「ピア~まちをつなぐもの」の上映会を医療法人の協賛という形で地域の医療・介護関係者向けに開催し、地域の医療・介護関係者の多くの参加があった。医療法人側では、アライアンス企業が病院敷地内にホスピス住宅を新規開設することを広く地域の医療関係者に告知してもらい、看護師の採用にも協力してもらった。
地方都市でのホスピス住宅開設だったが、人口が減少して外来患者も入院患者も減少傾向にある地方都市で、地元の医療機関と協力してホスピス住宅の新規開設ができたことは、元気のなくなってきていた地域医療の底上げにもつながることを実感した。
ホスピス住宅の課題と将来性
昨年から共同通信社により、上場している介護企業の不正が報道されている。パーキンソン病専門の「PDハウス」を展開する株式会社サンウェルズ、終末期の緩和ケアの必要な患者を対象として「医心館」を展開する株式会社アンビスホールディングス、この両社が大きく株価を下げる状況が続いている。
私自身が前職でホスピス住宅の新規開設を行った経験から、当初から想定されていたこの両社が抱えていた課題が表面化した状況に思える。
2023年3月に綜合ユニコム主催で「ホスピス住宅事業シンポジウム」https://www.sogo-unicom.co.jp/pbs/seminar/2023/0311.html を開催したが、登壇した3者(3社)に共通の思いがあり、ホスピス住宅について正確な情報をマーケットに届ける必要を感じて、セミナーという形で開催した。
また、セミナーの後に長谷工総合研究所のCRIという月刊誌で「多死社会の到来とホスピス住宅」というテーマでホスピス住宅の特集を掲載した。こちらの特集についても、正当なビジネスとしてホスピス住宅を展開している事業者側から、正確な情報を文字で発信するために特集を組んでもらった。
ホスピス住宅に関わる方や興味をもって頂いている方には、ぜひ、こういった正確な情報に触れて、ホスピス住宅が持っている社会的課題解決のポテンシャルを理解して欲しいと思う。
これからも、ヘルスケアマーケットに対して、社会インフラに関わっているという倫理観をもって正確な情報を発信していきたいと思う。